大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1851号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人加藤博隆上告趣意について。

論旨は、原判決では被告人が盗品であることを知っていたこと、すなわち賍物である情を知っていたことを認定するについて、被告人に對する司法警察官代理の尋問調査中の供述記載及び被告人に對する檢事の聴取書中の供述記載のみを證據としているから、これは憲法第三八條第三項に違反し、自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合に有罪とされたと主張するのである。しかしながら、原判決は、決して論旨主張のような認定の仕方をしているのではない。原判決が被告人の犯罪事実を認定するについては、原判決に列擧している諸々の證據を総合して認め得るとしたのである。本件で問題となっている賍物故買罪の犯罪構成要件たる事実は、(一)取引の目的物が賍物であること、(二)賍物である情を知って取引すること、(三)有償取引によって取得することである。そして、各具體的の事件においては、被告人の自白と補強證據と相待って、犯罪構成要件たる事実を総體的に認定することができれば、それで十分事足るのである。犯罪構成要件たる各事実毎に、被告人の自白の外にその裏付として常に補強證據を要するというものではない。そもそも、被告人の自白の外に補強證據を要するとされる主なる趣旨は、ただ被告人の主觀的な自白だけによって、客觀的には架空な空中楼閣的な事実が犯罪としてでっち上げられる危險--例えば、客觀的にはどこにも殺人がなかったのに被告人の自白だけで殺人犯が作られるたぐい--を防止するにあると考える。だから、自白以外の補強證據によって、すでに犯罪の客觀的事実が認められ得る場合においては、なかんずく犯意とか知情とかいう犯罪の主觀的部面については、自白が唯一の證據であっても差支えないものと言い得るのである。それ故に、原判決の事実認定には、何等の違法もなく、論旨は採用することはできない。

よって旧刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例